レビュー・感想

米津玄師を語るなら外せないアルバム『diorama』を聴いて

 ハチもとい米津玄師。元々、ボーカロイド勢から圧倒的な人気を誇っていたが、2017年にその人気が一般層にも拡大し2017年のブレイクの目玉ともなった彼。「米津玄師好き」という人が爆発的に増えた。知名度が以前と段違い。

 知名度が爆発してからこそ、是非聴いて欲しい作品がある。アイネクライネ? LOSER? ピースサイン? それらも素晴らしいけど、もう少し前の傑作。「diorama」

 dioramaを聴いてみて欲しい。初期の米津玄師の生み出した名盤。曲に対してアルバムを挙げるのは、相場が違うと怒られそうだけど、そこはご愛嬌願います。

『Apple Music』視聴リンクを作ってあります。ページ内でスクロールしながら聴けますのでお気軽に。
※音量が大きい可能性が高いのでボリュームにご注意お願いします。

少しだけ人物紹介

またの名をハチ。ハチ名義としてボーカロイド作品をニコニコ動画に作品を投稿し、ミリオン再生作品を数々生み出した。自閉症を抱えた過去があり、人と一緒に作品を創ることが苦手(だった)と自身が言うように、生粋のクリエイター気質。

ボカロを少しでも聴いたことがある人なら『マトリョシカ』や『パンダヒーロー』でピンと来るでしょうか。その作者がハチであり、米津玄師。

マトリョシカ

clock lock works

 楽曲はもちろんの事、イラスト作成、リミックス、マスタリング、PV制作まで、手掛ける多彩で多才な人物。最近ではクリエイター同士交流が増えたりしてるが、元々は”ほぼ”一人で作品を創っていた。

※初期の頃から南方研究所との作品があるので、”ほぼ”

「diorama」は、まさしく彼がその才能をいかんなく発揮した作品。

1stアルバム『diorama』

『diorama』は、2012年5月リリースの米津玄師の1枚目のオリジナルアルバム。

 それまでボーカロイドPのハチという名での活動から、米津玄師という本名に変えて、自身の声で楽曲が創られた記念すべき作品。本当に衝撃作であった。

クロスフェード

dioramaのクロスフェード

 ここで使われているイラストも彼が書いたもの。明るすぎず、暗すぎず、味があって魅力的。米津玄師が有名になってから、こうしたボールペン絵のようなタッチの絵をあらゆるところでよく見るようになった。彼の効果のなのかどうかは定かではない。

収録曲

二曲目『ゴーゴー幽霊船』

7曲目『vivi』

9曲目『恋と病熱』

MVがあるものを紹介。このアルバムは流れが素晴らしいので、全て紹介できないのが、もどかしい。

快適な不協和音風味

 不協和音を使いながら、バランスを保ち、耳にクエスチョンマークを浮かぶかどうかのギリギリを突いてくる鋭利さ。

 この不協和音”風味“が凄まじい衝撃だった。(※厳密には完全にはずれているわけでないので「風味」と表記)

 ポップなメロディとバックのどんちゃか騒ぎの謎の音達。大量の音を詰め込みながらも、耳に心地よさを与える綱渡りを簡単にしてしまうのが登場時の大きな特徴だった。

無味なようなカラフルなような

 一通り聴いてもらえば気付くように、dioramaは音色のバリエーションが非常に乏しい。どの曲も聴き味が似通ってくる。リード曲もアルバム曲もギターの音色、使っているWAV、音源がどれも似ている。

アルバム全体で一つの作品

 似てる事が問題なのかと問われると、個人的にだが、このアルバムに至ってはそれが功を奏している。「diorama」というタイトルにもあるように、このアルバムは米津玄師が作った「街」をテーマに創られている。このアルバムは彼の中のdioramaなのだ。米津玄師の脳内仮想空間、その中での物語が詰め込まれている。

 一貫して物語性があり、一つの小説のような物なので、一曲一曲の繋がりをより強く感じさせる音作りになっている。なので上に挙げたように一曲ずつ飛ばして紹介するのは、もったいなくも感じ始めから最後までが繋がった大きな作品。本人が挙げてないからしょうがないのだけど、出来るならここでアルバム全曲紹介したかった。
 

似ている事による弊害

ただこのアルバム、恐らくだが、取っ付きにくい。どうしてもリード曲以外が記憶に残りにくいという特徴がある。音色が似ている事により、それぞれの曲のパンチがどうしても弱くなり、覚えにくいという意見がどうしてもある。

 この作品は圧倒的にスルメアルバムだと思っている。聴けば聴くほど味が出る。

この頃と大きく音が減った今

どこが機転だったかは定かではないが、『アンビリーバーズ』あたりや、アルバム『Bremen』以降は作品の作り方がごろっと変わってるので、もはや初期と今は別物である。ハチ時代の面影は少しずつ減ってきている。

https://cotohato.com/yonezukenshi_bremen/
 
 米津玄師ファンの中にも派閥があって、「YANKEEまでは聴いてた」「Bremen以降は聴いてない」という人もいれば、「Bremen最高」「LOOSERからハマった」「dioramaは聴いてない」という人もいる。音楽がもう違うのだからこれはどうしようもない。

音が厳選されてる

初期とは違うが、これも良曲。

きっかけはなんだっていい

 なにで知ったか、何か知るきっかけなんて人それぞれ。そのアーティストのどの時期を好きになるかは、聴き始めるタイミングや聴いた作品による。なんにせよ聴く人が増えるという事は嬉しい限り。

 ただなんとなく、初期から聴いてる身としては、是非初期も聴いて欲しいという勝手な願望がある。段々と変わっていく音楽の変遷を楽しめるのが良い。決して強要はしない。随所の「聴いて」は、せめてものお願い。無理強いはしません。

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むすびに

 出来れば、アルバムの一曲目である『街』からフルで載せたかったのだけど、いかんせん公式が出していないのでクロスフェードと試聴で断念。

 この曲ほどオープニングが似合う曲はそうそうなくて、本当にどこかの街に迷い込んだような感覚に陥る。紹介できないのがもどかしい。最後の『抄本』も締めとして鮮やか。
 

 米津玄師が自身の声で歌うことを選んだのは、「初音ミクという偶像を取っ払ったらどうなるか」を知りたかったからで、そういう意味では、このアルバムはボーカロイド楽曲を人が歌った作品とも言える。(歌ってみたとはさすがに言うつもりはない) 

 一人で殆ど全てを手掛け、最後まで完成させた「diorama」という作品は異質なアルバム。米津玄師をせっかく知ったのであれば、彼の魅力が詰まった是非聴いてほしい作品なので、改めて紹介。初期のこの内向的な音楽を楽しんで頂ければ幸い。

 それではまた。

<文・編集 = hitoto(@tonariniwa

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