少年ジャンプ読んでたら、いつの間にか美術書を読んでた。
そんな感覚に陥るのが、米津玄師の「BOOTLEG」という作品。
「BOOTLEG(海賊版)」の穏やかではない響きから、それをあざ笑うかのようなオリジナリティ。
前例ありの初動殴り込み
軽快で爽快な「飛燕」から始まる。テンポは違えど、頭拍のベースがどこか「アンビリーバーズ」を彷彿とさせるずっしりとしたベース。
アルバム1曲目として、弾けすぎないサビ。二番になった途端にめちゃくちゃ元気になるアコギの伴奏。「首なし閑古鳥」のイントロ並に音が鳴ってる。愉快、軽快。
2曲目「LOSER」
米津玄師お得意の綿密な語彙のマシンガン。ただ、過去より”口語表現”が増えていて「一人で詩を歌う」から「語りかけてくる」風に変貌を遂げた。一人で音・歌詞が(ほぼ)完結してた時から大きな違いがある。彼も人間なのだ。
LOSERリリース時、こぞって色んなアーティストがダンスを曲に取り入れたことから、「シンガーソングダンサー」なるジャンル呼びされていて笑った。
3曲目「ピースサイン」4曲目「砂の惑星(+初音ミク)」5曲目「orion」…….
1曲目「飛燕」を除いて、全てMVがある。…この流れどこかで見たぞ。「YANKEE」でも見たぞ。
そう、米津玄師は「MVありのリードトラック」をまた前半戦に打ち込んだ。このままじゃ、海南戦の前半で体力が尽きた流川になってしまう。このペースで最後まで持つんですか..?
ハーフタイム「かいじゅうのマーチ」
「YANKEE」でも「サンタマリア」があったように、休憩ポイントがある。BOOTLEGの場合、「かいじゅうのマーチ」
NHK「みんなのうた」にでもありそうな曲。とにかく優しい言葉使いで、寄り添うような歌。
元々、引用(参照)の多い彼だけど、今作「BOOTLEG(海賊版)」のタイトル謳うとおり、この曲もまた引用が強い。(森山良子の「今日の日はさよなら」の歌詞と一部が完全に同じ。)
そこまで独特な文章ではないので、偶然の可能性もある。けど、アルバム・曲の童謡的コンセプトの見解だと、狙っているように見える。
また、米津玄師は自身を「かいじゅう」(のよう)と考えていた時期もあるため、この曲の主人公は彼自身かもしれない。
前半の畳み掛けるポップさは、週刊少年ジャンプの作品を読んでいるように爽快だった。プルス・ウルトラ!!
後半戦、ジャンプじゃない
そんな童謡「かいじゅうのマーチ」が終わり、始まる曲が「Moonlight」である。お昼に運転してたはずなのに、急に夜になった。道を間違えたかな。
「Moonlight」どことなくMOTHER2のムーンサイドという街を彷彿とさせる異様な空気をまとった曲。
出典:MOTHER2より
この曲がマンガ的な能力を持つなら、絵画や無機物に命を与えるみたいなものな気がする。色んなところから声が聴こえて、囲まれてる。
そんなわけで能力にやられ、気がついたら屋内の美術館に迷い込んでいたみたいだ。
ここからは摩訶不思議なアドベンチャーがはじまる。
「春雷」こんな年代を超えた曲が米津玄師から聴けるとは。春の到来を知らせる雷、春雷。歌詞を読み取れば、淡く憂いなラブソング。切ない。
「池田エライザどこ?」と最初は言いたくなる「fogbound(+池田エライザ)」。ちゃんとコーラスにいた。きれいに融合しすぎだ。
ルーブル美術館特別展テーマソング「ナンバーナイン」。土壇場に曲が追加になって、ナンバーナインなのにナンバー10。アルバムの展開的にこれがベストの判断なのだろうけど、苦渋の選択だったんだろうなと想像する。
…プルス・ウルトラどこいった?
杞憂
美術館に迷い込み、ジタバタしてるうちに「爱丽丝(アリス)」「Nighthawks」などで元気が漲ってる。米津玄師、ギアセカンド。
また気がついたら、ジャンプのような世界に戻ってる。なんにせよファンタジー。
察しの良い方はもうお気づきのように、このアルバム収録曲は、ほとんどMVが存在していて、前半に固めようが関係なかった。体力が尽きるとか、そんな心配は無用の長物。前半で彼の持ち玉がきれるわけなかった。流川とは違った。
線香花火のような玄人向け「打ち上げ花火」
「打ち上げ花火 下から見るか?横から見るか?」でラッパーDAOKOとのコラボした曲「打上花火」。
めちゃくちゃ戦場ヶ原ひたぎ
それがアルバムでは、米津玄師専用機となっており、それがまた味がある。どちらもよいけど、個人的にはこちらのほうが好き。これを夏の終わりや、花火大会の帰り道で聴いたら、感傷に浸るものがある。
ただひとつだけ言いたいのは、このアレンジ、「打上花火」というより、「線香花火」みたいだと思いました。チチチと光ってるあの朧げな線香が曲のイメージにあるのかなと。
ラストを飾るふたり
そして、ラスト 「灰色と青(+菅田将暉)」 当時、なんだこの異色のタッグと思ったら、良いコンビすぎて驚嘆。
青春の時をどう過ごしたか、対極に位置するであろうふたりのコラボ。対比が美しいわけです。
曲のキーも、菅田将暉と米津玄師どちらも映えるもので、歌ものとしてクオリティが凄まじい。声の相性も良い。
池田エライザは調味料的に曲に登場したけど、菅田将暉は主食として登場。おいしい。
最初単体で聴いた時、あまり好きではなかったのだけど、アルバムの流れで聴くと、これしかないと言える曲に耳が仕上がった。アルバムのラストを飾るにふさわしい曲だった。
むすびに
「米津玄師ってどれ聞けばいいの?」と聞かれた際には、基本的に「YANKEE」を勧めてたのだけど、このアルバムも推します。そして「diorama」など深いところへ。
「BOOTLEG」は、とにかくオープニングから聴きやすいように出来ていて、タイアップ曲が多いので、すでにどこかで耳にしてる曲もたくさん。
「ジャンプ読んでたら、急に美術品みせられて、移転して戻ってきたら、いつのまにか夏が終わってた」みたいなアルバム。我ながら意味が分からない。(※個人差多いにあり)
新曲がリリースさせるたび、楽しみを貰えるな思う次第です。
それではまた。
<文・編集 = hitoto(@tonariniwa)