大衆娯楽推理風マンガ『魔人探偵脳噛ネウロ』(以下ネウロ)。
実写映画化までした『暗殺教室』の前作であるこの作品。この『ネウロ』が、病的に面白いのです。
絵の独特さ、ダークな部分な部分の多さから、連載当時からコアなファンに愛された作品の魅力を今一度紹介します。
『魔人探偵脳噛ネウロ』
(週刊少年ジャンプ(集英社)にて、2005年12号から2009年21号まで連載)
もくじ
『ネウロ』の魅力はいったなにか
圧倒的な話の面白さ
このマンガの一番の魅力はダントツで「話の面白さ」。話作り、脚本がとにかくめちゃくちゃに面白い。
「謎」を食料とする「魔人ネウロ」 魔界の謎をすべて食べ尽くしてしまったネウロは人間界に。
桂木弥子の父が殺された不可解な事件をネウロが解決。人間界で謎を集めるため、ヤコを「偶像」として扱い、数々の難事件を喰いにかかる。
作品のテーマである「進化」
普通の人間である「桂木弥子(カツラギ ヤコ」と魔人として人外の力をもつ「ネウロ」。
「段々と退化するネウロ」と「人間として成長するヤコ」の対比が美しさ。
ネウロに出来ない「人間の感情を読み取る力」をヤコがカバーし、あとはネウロのとんでも推理力と魔人の桁外れの身体能力で解決。
本当に大雑把に言うと、話の流れは大体そんな感じなのですが、結果を知ってても過程が面白いのがこの漫画。
種別の違うもの同士が補い合う構図と、能力の進化と退化の対比が熱い…!
「食べ物を食べる」のが好きなヤコと、「謎を活力(食料)として食べる」ネウロ。
二人とも、食べることが共通点で。大食いという点において二人は似た者同士な二人。いいコンビ。
探偵モノなのに、犯人を推理するのはムリ
推理物の革をかぶった、単純娯楽マンガです。
『魔人探偵脳噛ネウロ』1巻 そで部分より
本人がこういうように、一般的な推理ものは違い、読者が犯人を予想できる要素はほぼ皆無です。読者が入り込む余地のない事件モノなのに、のめり込んでしまうのは、キャラクターの個性にあります。
他を寄せ付けない、個性的な犯人の「豹変」
ネタバレになるので多くは書きませんが、『ネウロ』の犯人はほぼ全て豹変します。
ネウロにトリックに見破られ、自白するシーンの豹変っぷりは、ジャンプ連載陣でも屈指の「はっちゃっけぷり」だったと思う。
恐らく一番有名なのは「ドーピングコンソメスープ」でしょうか。
犯人の豹変シーンはギャグとしても優秀。そんでもってセリフ回しや組み立てが秀逸なので、一粒で二度おいしい状態。
他にも「髪切り美容師」「爆弾魔ヒステリア」「家たん燃え〜」など個性的な犯人ばかり。その豹変を楽しむのもこの漫画の醍醐味。
「この事件の犯人はどうはっちゃけるんだろう」
と奇抜な画を求めるワクワクがあります
ブラックユーモア、風刺的な笑いが鋭い
この作品が万人ウケしなかった理由の一つに、「ブラックユーモアが強すぎた」があります。(松井優征は元々万人ウケは狙ってなかったのですが)
(一応)推理モノとして「犯罪者」がたくさん出たり、血の描写が多いことからか、連載時「教育にはあまりよろしくない」「グロい」など反応があり、子供受けはあまりよくなかったです。(読んでた当時、自分の年齢は完全に子どもでしたが)
毒のあるセリフがとにかく多ったり、「ヤコに対するネウロのSっぷり」なども、よくよく考えれば少年誌向けではなかった。ジェニュインとの絡みも、シックスの極悪さも、かなり際どい。
余談ですが、ご存知『マンガでわかる心療内科』のゆうきゆう先生もこのマンガに言及しており、自身のブログで、「シックスのS度っってあんなもんでいいの」といったニュアンスの文章を残しているので興味があれば読んでください。おもしろいですよ。
ハマる人にとって、『ネウロ』におけるセリフや皮肉は財宝。実際、アンケートは終始安定しており、松井優征の考える最高のエンディングまでこのマンガは到達しました。
小さいコマや地味なセリフにあるユーモア
「俺のクルマみたら、絶対すげーって言うぜ」
「上がってほしくてさぁ!!!」
「研ぎ澄まされた冷凍ピザ…!」
「見たけで人を判断するなー!!」
ネウロ読んだことない人でもこれ見たら読んでみたいなって思うでしょ読め pic.twitter.com/f9lYBCnEbD
— 是枝瓜ちゃん (@uriedamame) 2018年3月3日
数ヶ月前、これがバズってた
読んだ人しかわからない、けど読んだ人なら印象に残るであろうシーンがべらぼうに多い 面白いのが、印象に残る細かいネタが人によってかなり違うこと。ネウロの話をすると、「そんなのもあったあった」と話の広がり方が結構ユニークになる。
小さいコマに、ネタが挟まれていて、何度読んでもその小さいギャグにニヤついてしまう。
ヤコ:海底の貝を息継ぎ無しで食べ続けてるようなもの 体に無理が出て当然だ 私も試した経験があるからよくわかる
個人的によく思い出すのはこのシーン。
食い意地のはる「ヤコ」だからこそ成り立つ、地味に好きなシーン。
「いや、なんで試したことあるんだよ」とツッコんだ。突っ込まざるを得ませんでした。
どこでも終われるように練られた「緻密なストーリー設計」
ネウロの最終巻(23巻)でも書かれているのですが、『ネウロ』は「どこでもキリよく終われるような設計」がされています。
連載が決まったとき、最重要課題に考えたのは「商品として成立した作品を送り出したい」という事でした。自分の能力に可能な限りの範囲で、本を買っていただく方に対して責任をもってはじめ(中略)
そのため最初の三話を始めとして1,2,3,7,10巻用のストーリープランを作り、どの段階でも極力責任ある終わり方が迎えられるように備えました。
『魔人探偵脳噛ネウロ』23巻 あとがき
少年誌、そして週刊誌である「週刊少年ジャンプ」
その入れ替わりの激しい荒波の中で、これをやってのけたのはすごい。
そしてたどり着いたのが、最長の(ほとんど漠然としか考えてませんでしたが)20巻プランです。
爆発的な人気はなくとも、根強い支えがあり最長の最期まで連載された。最長プランのこのマンガを見届けられてほんとによかった。
すべてのストーリーがラストに繋がる
松井優征はどこでも極力責任ある終わり方が迎えられるよう準備していました。さらに驚くべきことで、切り取れる上で、すべてのストーリーがラストに繋がるのです。
切り取れるのに、全て読んでしまうと「最後まで読んでこそ、ネウロという一つの作品だ」と思わされる脚本力。思い出補正も多少あるでしょうが、いつ読んでもめちゃくちゃ面白い。
一説によれば、編集部に「ジャンプであれほど綺麗に終わった作品は珍しい」と言わせたとかなんとか。
ネウロの次回作である『暗殺教室』とともに、終わり方までが本当に素晴らしい。松井優征の圧倒的なストーリー戦略の結晶。お見事あっぱれです。
この話がさらに語られてる本があります。『ひらめき教室 「弱者」のための仕事論』です。
松井優征がより好きになる一冊でした。「松井さんはデザイナーとしても優秀ですよね」と佐藤さんに言われてるのは、ファンのとっても嬉しいもの。
お互いが好きな家具の話をしたり、松井優征の扉絵にデザイナーである「佐藤オオキさん」が意見していたりと、読み応えあり。デザインの話、松井優征のマンガへ工夫などが分かり、すごく面白い。
馴染みのあるものだと、2018年にZEBRAより発売された「bLen」というボールペンがnendoによるデザインです。
世間一般でみると知名度はないように思えますがほとんどデザイナーやクリエイティブ界隈ではかなり著名なデザインオフィスです。
知らず知らずのうちに使っていた商品あったりするので、チェックすると発見があるかもしれませんよ。というか発見しかないです。要チェック。
すごく個人的に言いたいこと、「アニメをリメイクしてほしい」
『ネウロ』は一度2007年にアニメ化しているのですが、正直それはそれはヒドイ出来だった。アニメの制作に関わった人には申し訳ないけど、ストーリーの改悪が多すぎて、見るに堪えないものでした。
原作の良さがほとんどなくなってしまっていて、「せっかくのアニメ化なのになぁ」と落胆を隠せず。その点、次回作である暗殺教室は「メディアミックス」まで見据えて作られており、万人に愛される大型作品となりました。
なので、出来ることならもう一度、リメイクしてほしいと思う。原作ファンの間では、アニメは「なかったこと」になってます。球磨川禊か? かくいう自分も、あれはなかったことにしてる。なのでリメイクというか、「新規アニメ」としてどうでしょうか。(失礼)
むすびに
・綿密な脚本 ストーリー展開
・どこで切れるのに、すべてが繋がるストーリー
・小ネタ・風刺ネタがキレキレ
・独特な絵柄のインパクト
・価値観の問い
・人間の「進化」への可能性
・犯人の豹変の面白さ
・デザイナーも認めるモノの発想力
こういった所でしょうか。一言でいうとネウロ最高です。ニューロンの申し子。ほんとHAL編とか鳥肌立ちっぱなし。
これを小さいころに読めたのは、幸福としか言いようがなかったです。あらゆる価値観に触れられて、色々な登場人物についつい感情移入してしまうマンガ。
「人間の進化、可能性」を、ダークな言葉や皮肉を使い、読ませるマンガ『魔人探偵脳噛ネウロ』。魅力は少しでも伝わったでしょうか、もしくは思い出したでしょうか。
絵柄に抵抗さえなければ、本当にオススメです。抵抗あろうと、一度試し読みしてみてそこから判断しても遅くはないです。人を選ぶのは間違いないですが、内容の面白さは保証します。松井優征の天才的で、計算し尽くされた世界をどうか楽しんでください。
それではまた。ありがとうございました。
<文・編集 = hitoto(@tonariniwa)