レビュー・感想

人間になった米津玄師のセレクトショップ『Bremen』【3rdアルバムレビュー】

 米津玄師は3rdアルバムで人間になった。それまでも人間だったが、さらに人間になった。

 誤解を恐れず、言わせてもらうと『Bremen』は米津玄師作品の中でもっとも個性が少ないアルバム。とにかく普遍的な作品。

 品揃えはデパート(diorama,YANKEE)に比べると少ないけど、置いてるものは厳選されたセレクトショップ。そんなアルバム。

『Apple Music』視聴リンクを作ってあります。ページ内でスクロールしながら聴けますのでお気軽に。
※音量が大きい可能性が高いのでボリュームにご注意お願いします。

米津玄師が目指したのは「普遍的なアルバム」

初期の頃や、ロッキンオンのインタビューでも語っているが、米津玄師は「普通」を目指している。

音に違和感がほとんどない

『あたしはゆうれい』のWAVや『メトロノーム』『フローライト』のイントロ、全編とおして鳴る打ち込みのSEなどに見える米津の「変な音」は健在。だけど、耳が違和感を覚えるほどではない。

『ゴーゴー幽霊船』のイントロの半音チョーキングギターや変な音は、明らかにあれがメインだった。違和感ありで、しかもそれがメインの商品。

『vivi』のコーラスを極限まで強めたグワングワンのイントロもとにかく耳にクエスチョンだらけ。

『MAD HEAD LOVE』のイントロなんて常に気持ち悪い。(褒め言葉)

 『Bremen』でも飛び道具や装飾としては使われてるが、それがメインじゃない。あくまで装飾品。曲の大部分は普遍的であろうとしている。面白いメロディや音は沢山あるのだけど、曲の中に溶け込んでる。

 そもそも米津玄師はリリース時「普通になりたい」とインタビューでも答えていて、それを体現したアルバムになっている。

ロッキング・オン・ジャパン 2015年 11 月号 [雑誌]

 ちなみにもともとポップが好きな彼が「精一杯にわかりやすい普通の曲」として書いたのが『vivi』である。普通を目指しててるのに、笑えるほど個性的。

わかりやすい歌詞へ

 たびたび「米津玄師の歌詞は文学的」とこのサイトでは表現させてもらっているけど、『Bremen』に関しては非常に詩的で日記的。

米津玄師の【YANKEE】という暴力じみたアルバム YANKEEという雪崩。 米津玄師、もう説明不要に大きくなった彼。ここでは彼の2ndアルバム【YANKEE】の魅力を書いていきたい。...

生きていけば今 生きていくほど
さわれないものが増える 
何も手に入れちゃいないのに 失くしていく気がするんだ 
どうして

ミラージュソング

さめないでって きえないでって
馬鹿みたいに願ってるんだ 
どこにだって行けるんだって 
ばればれの嘘をついていた

雨の街路に夜光蟲

 『diorama』で見せた内向的な世界、『YANKEE』で見せた聴く文学とは大きく違う。歌詞の届きやすさを優先して『Bremen』の音楽隊は詩を歌ってる。気難しい言葉はほとんどない。より抽象的な表現。

 ただ、「わかりやすいようで、実はわかりにくい」ような、不思議な感覚まである。言葉は平易になればなるほど解釈の余地がひろがって、わかりにくいことは多々ある。

海が見えるあのテラスから 声が聞こえる
気怠げな日陰の中で猫が鳴いている
青空を白く切り抜いた 鳥が飛んでいる
この街は君の歌を歌う 君が何処にいようとも
いつまでも

ホープランド

このあたりの歌詞やメロディは、やっぱり米津玄師だなと言わざるを得ない素晴らしい情動。

ビブラートが激しい

 ボイトレの成果だと思うのだけど、歌詞が普遍的に、曲が平穏になったと思えば、あら不思議。ビブラートが激しくなった。『BOOTLEG』がリリースされた今聴いても『Bremen』のビブラートは強すぎると思うくらい激しい。

 一体どうしたの?と言葉をかけたくなった。元々いい声してるので、変な話そこまでビブラートなどのボイス的テクニックはそんなに必要じゃないのかな?とも感じてしまう。引き出しとしてストックするのは良いと思うので、野暮な話なのは承知です。

 このビブラートが強いのも妙に人間味がある。

クオリティ高し

 当たり前なのだけど、今までに比べると個性が薄いだけで、曲のクオリティは担保されてる。彼が中途半端な作品を創るわけがない。

 今までの米津玄師のアルバムは「初動のインパクト」が強く、耳にゴムゴムのピストルを打ち込まれ一発KOし、気がついたら「仲間だろうが!!(曲の虜)」と叫んでる作品だった。

Bremenはスルメアルバムでセレクトショップ

 その対比でみると、『Bremen』は一発目の威力が低い。小さいパンチ。噛めば噛むほど味が出るスルメアルバムの一つ。

 音のデパートである『diorama』『YANKEE』はインパクトが強めながら、いつ聴いても「新しい発見」がある。スルメなのに最初から美味しい意味不明なアルバムだった。

 その点『Bremen』は音がかなり少なく、デパートほど品揃えはよくない。けどしっかり評価されてる。これは米津玄師が音を厳選した結果で、セレクトショップのようなもの。音を厳選し、洗練して、なおかつメロディも普遍に寄せる。

 そうする過程で、『Bremen』が出来上がり、ボカロやその中間から飛び出た。『diorama』のボカロ感から、『YANKEE』のボカロとバンドサウンドの中間を経て、米津玄師は米津玄師という人間になった。



むすびに

 米津玄師の個性を味わうアルバムとしては正直物足りないアルバムではあるけど、好きな人はかなり好きなアルバム。普遍的な音楽アルバムであり、質はやっぱり高い。米津玄師の中でもっとも人間味のあるアルバム。最もリスナーに寄り添ったアルバムだったと思う。

 米津玄師の圧倒的な個性は少ないアルバムだけど、それでも好きな人は確かにいる。ある意味実験的なアルバムなのかな?と思ったりもする。『雨の街路に夜光蟲』などのタイトルはさすがの一言。

それではまた。

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